風林火山 第44話 「信玄暗殺」

宇佐美の命。
それは駿河にいる寅王丸を使って武田信玄を暗殺する。




1536年、平蔵は甲斐で農民として生きていた。
その同じ村に住むミツという娘が好きだった。

しかし、ミツは
どこの素性も知れぬ大林勘助なる浪人を好きになった。



それから二十数年の時が流れた。


ミツは甲斐の当主・武田によって殺された。

ミツを殺した武田が憎い。

しかし、ミツの兄も勘助も皆武田に仕えて生きていく。




平蔵は真田家・諏訪家と主家を変えて武田と戦う道を選んだ。



せめてオラだけはミツの無念を晴らしてやりたい。
自分が一番ミツの事をわかっているんだ。





それから平蔵は村上義清と共に武田と戦う事になった。




そこで、平蔵が提案した策が村上義清に用いられた。
それによって武田は大敗を喫した。

その時、平蔵の中に新たな感動が生まれた。




軍略によって敵を制する喜び。




そして、その歓喜は平蔵に新たな野心を芽生えさせた。




わしも勘助のような軍師になりたい。


その野心を抑えきれない平蔵は
長尾家軍師・宇佐美定満の門を叩いた―――。






その夜、平蔵は妻・ヒサに此度の役目を話した。



ヒサは言う。

生まれた倅に父の名を
生まれた娘には平蔵が昔大事にしていた娘の名をつけたは
平蔵に命を粗末にして欲しくないため。
皆死んでいく。

私らは生き残った。

なれど恨みを残すより、今は新しい命を育てていく方が大事じゃ。


わしは武士じゃ。それでは義が守れぬ。

寅王丸様も武田への恨みに走れば死ぬやもしれぬ。
たとえ仇を討てたとしてもご無事では済むまい。

さすれば平蔵が殺した事になろう。



義のためじゃ。


それに勘助のような軍師になりたい。
それに勘助は勝つためならば、どんな汚い事だって
してきたではないか。

ならば―――。






そう自分がこれからする事は問題ないと言い聞かせ
平蔵は駿河の地へ向かっていく。











その頃、甲斐では信玄の嫡男・義信に姫が生まれた。

信玄と三条夫人は祖父と祖母になったのである。

新たに生まれてきた命の誕生に武田家は和やかになった。





その報せは駿河にいる義元も喜ばせた。





しかし、義元の母・寿桂尼にとっては
その報せも今川家繁栄の第一歩にしか見えなかったらしい。


これで義信殿が家督を継げば
武田は今川家に骨抜きにされたも同じ。早うそなればよいのう。

信濃守護になった武田が次に何を望むかは明白。
そうなる前に―――。





その時、
越後より矢崎と申す者が宇佐美定満の書状を持って
お目通りを持参してきたとの報せを受ける。





はて、面妖な・・・母上。
たった今、武田より誼を強くしたところで
その敵方より使者が参りました。


まずはわらわがまずは会うて話を聞きましょう。

お任せ致します。




宇佐美の策―――。
これは今川家の助力がなければ難しい。
義元直々でなくとも家老か生母の寿桂尼が応じてくれよう。

そこで、そちを諏訪家の遺臣として送り込む。







宇佐美定満の書状によると

矢崎平蔵なる者、諏訪頼重の仇を討つために奔走しておると。
諏訪家の仇討ちのために諏訪頼重の遺児・寅王丸に会いたいと言う。

平蔵は寅王丸様がお立ちになられるならば
某一人でも共に側に戦うと強く語る平蔵。

その申し出に寿桂尼は言う。
それは無謀な事。なれど・・・無下には出来ぬ志じゃ。




―――食い付いた。



平蔵は宇佐美の言葉を思い出す。

武田の風上に立てる好機じゃと思えば
今川はそちの後ろ盾となってくれよう。

謀とは左様な事じゃ。









矢崎某の申し出を聞いた寿桂尼は今川義元に報告した。


かの者は寅王丸をそそのかし武田への仇討ちをさせると。


おそらくは宇佐美の謀であろう。

長尾家はこれに関せず。
あの矢崎とかいう者を捨て駒として。
寅王丸にそのような事を・・・出来るとすれば寅王丸しかおらぬ。



母上はその謀に・・・


信玄が討たれたとなれば義信が家督を継ぐ事になろう。
あの者と寅王丸を引き合わせた事で武田との仲に障りはあるまい。


義元はそれ以上、黙して語らなかった―――。


















その頃、勘助は信濃・高遠城にて
元服を控えた四郎の姿を目の当たりにしていた。

四郎様は甲斐の猛牛と言われる程の武将・秋山信友と互角に戦えるまでに強くなっていた。


勘助は四郎に兵を率いるための陣形を教えていく。

「勘助。」

はい。

「そちは出家しても戦のことに余念がないのじゃな。

わしのためか。それとも亡くなられた母上のためか。」


武田家が御為でござりまする。


「このわしは武田家ではなく諏訪家を継ぐのであろう。」

ご不満にござりまするか。

「いや、不満ではない。父上が左様に望むのであれば、わしはそれに従うまでじゃ。」

諏訪家を御継ぎ頂く事は甲斐と諏訪の者、皆が望む事にござりまする。

己の本心はひた隠して―――。














それから間もなく駿河・善徳寺で
寿桂尼は出家して長岌となった寅王丸と矢崎平蔵を引き合わせた。


俗世を捨てた長岌に対して
平蔵と寿桂尼は武田に対する憎悪の炎を注いでいった。



平蔵は宇佐美が教えてくれた通りに寅王丸に言い聞かせた。
武田晴信は貴方様の御姉君を無理矢理側女にしたのです。

その姉君に息子が生まれ、貴方様が邪魔になったのです。

本来ならば貴方様こそが諏訪家を継ぐ御身。
それを武田に約束された故に諏訪頼重は御自害なされたのです。




それでは・・・私のために父上は・・・

それではあまりに父上が御可哀相だ。

酷い・・・酷い・・・側女になった姉上は如何に



姫様は武田に・・・・・





殺された。



寿桂尼の言葉に平蔵は思わず彼女の顔を見上げた。


寿桂尼は平然と言う。

殺されたも同じじゃ。


諏訪の地に押し込められ子を生んだ後は
ただの囚われ人として病に倒れた。
武田と諏訪の子が生まれれば諏訪衆の怒りを鎮められると思うたのじゃ。

駿河の寺に預けられたそなたはこの世におらぬも同じ。
今川家は目付にされたも同じじゃ。

このまま何も見ず何も知らずにそなたを預かっておればよかったかのう。
そなたに明かしたとなれば武田に恨まれようや。




「寿桂尼様!
今川家にご迷惑はかけませぬ。
このまま黙って御見過ごし下さいませ。」


今川家はそなたを捉えている訳ではない。
諏訪の嫡男としてすべき事をすればよいのじゃ。

今川家をまた頼るがよいぞ。



平蔵は目の前にいる尼を見て思う。

彼女こそ寅王丸様をそそのかして武田信玄を討とうとしている





そうして長岌は矢崎平蔵と共に甲斐へ向かった。






平蔵は山伏に身を窶した。

長岌は平蔵に尋ねた。
「そなたはそこまで諏訪家に忠義を果たすのじゃ。」

御父君のためにございます。
御父君は誠に立派な御大将にあられました。



「武田は諏訪の神を討ったのか・・・」

二人の間に沈黙が続いた。


「矢崎、そなたも一人身か。」

いえ、他国に妻子を残して参りました。

「ならば、そなたを連れていけぬ。」

平蔵はそのような言葉がこの僧から返ってくるとは思わなかった。

「そなたを道連れには出来ぬ。」

某もお供仕りまする。


「そなたも父であろう。また、新たに子から父を奪う事になってはこの仇討ちの義が立たぬ。」

長岌様・・・


「ここからは寅王丸として参る。私一人で十分じゃ。
矢崎、よう会いに来てくれた。妻と子を大事にせよ。」


その言葉に平蔵の心が揺れる―――。









甲斐に戻ってきた勘助はリツに最近変わった事がないか尋ねた。
最近、若い僧が来て色々と面白い話を聞かせてくれると言う。

勘助はそんな話を酒の肴に飲んでいた。









三条夫人は義信の子を抱いていた。
可愛らしい姫だった。

夫人は言う。
「義信がこの甲斐の後を継いで立派になってくれれば私の役目もそれで終わる。
もう何も望むものはない。」


萩乃は三条に尋ねた。
「甲斐に嫁いでほんまにお幸せにございましたか。」


三条は答えた
「幸せじゃ。今が一番。」


そんなお方様の笑顔に萩乃も笑った。








平蔵は長岌が向かった積翠寺に向かった。

長岌がかけてくれた言葉が忘れられなかった。

我らは共に寅王丸様を利用しようとしていた。

捨て駒として。

それなのに寅王丸様はたった一人で武田信玄を討とうとしている。
寅王丸様を陥れようとした自分の身さえ案じてくれている。

そんな寅王丸様をオラは―――。







そんな時に伝兵衛と太吉に出会った。

二人は平蔵が生きている事を喜んだ。

しかし、平蔵の格好と何も語らない様子に疑問を抱いた二人は勘助を呼ぶ事にした。












その頃、長笈がいる積翠寺に信玄が参っていた。

















平蔵が生きていたという事に勘助も喜んだ。

しかし、一言も発しない平蔵に勘助は怪しんだ。

平蔵は積翠寺にいた。

そして、その積翠寺に坊主が訪れている。

―――!

勘助にひとつの考えが浮かんだ。


その坊主とは誰じゃ!


平蔵、御主が連れてきた、
左様な刺客に御館様が討てると思うてか!!

刺客は八つ裂きにされるだけじゃ!!




耐え切れなくなったように平蔵は言葉を発した。



勘助、寅王丸様を止めてくれ!
寅王丸を許してくろ!!


寅王丸と申したか!!


勘助は急ぎ積翠寺に向かっていった。



平蔵は寅王丸をここまで連れてきた事を今更ながらに悔やんでいた。

平蔵は勘助のようにはなれなかった―――。












長岌は姫達に平家物語を伝え聞かせていた。


信玄は縁側で横になっていた。


長岌は風邪を引くといけないから
何かかけてあげましょうと言い信玄に近付いた。




長岌は信玄のすぐ側まで近付いていた。

そして懐刀を抜いた―――。



寅王丸!


思わず長岌は腰を抜かした。
尚も刀を構える長岌に対して信玄は平然としていた。


長笈、わしがその名を知らぬと思うか!!
よう甲斐に参ったのう。

そなたの事はいつも気にかけておった。
わしが館に参れ。


長岌の手から刀がこぼれ落ちる。



話がしたい。



御館様の危機を知り、慌てて駆けつけた勘助に信玄は笑った。


見よ。寅王丸じゃ。
立派な僧となってこの甲斐に戻ってきた。









信玄は寅王丸をかつてお北の方様が篭っていた御堂の前に連れてきた。


そなたがこの甲斐に来た訳は甚だ残念ではあるがつらき思いをさせたのう。
すまぬ。この通りじゃ。


この不動明王の御前にて我が母は身罷れた。

覚えておるか、我が母の事を。
誰よりもそなたの事を案じておった。

その母に誓い
またそなたの母である妹の禰々に誓い
わしはこれよりそなたを我が下に留めおきたい。



信玄の申し出に寅王丸は驚いた。


ありのままのわしを
武田家をそなたの目で確かめて欲しいのじゃ。


わしを恨むのはそれからでも遅うはなかろう。



既に寅王丸には武田を恨む心はなかった。






思わぬ訪問者が訪れるまでは。









三条夫人や萩乃の制止を聞かず
御堂に現れた義信は父と寅王丸に詰め寄った。


かの者が父上に刃を向けたは誠にござりまするか!

控えよ。そちのいとこぞ。

父上を殺めかけようとした者を左様には思いませぬ。


義信様、御上意にござります。

黙れ!元はといえば山本勘助。
そちがかの者の姉に誑かされ斯様な始末となったのじゃ。


痛いとこを突かれた勘助。

しかし義信の怒りは収まらない。


そのため、諏訪家には母上は散々苦しめられてきた。
父上は諏訪家の女を側女にしてまで諏訪との絆を保ってきたのじゃ。
今更戦に負けた恨みを晴らされる覚えはない。
全ては終わった事なのじゃ。



下がるのじゃ、義信。


義信の言葉を一通り聞き終えた寅王丸は言う。

「義信様、私は何も知らずに生かされてきたのです。
ありのままを知らずに。

しかし、今にわかな恨みも消えました。」


誠か。


「誠にござりまする。」



長岌は両腕を広げ言う。

「ありのままの私の心をお確かめ頂きたい。」



その行動に勘助は怪しげなものを感じていた。

そうして義信の前に立ちはだかる。


義信様、お下がり下され。

それが義信の癇に障った。

無礼者!そちこそ下がれ!!




義信が勘助を振り払ったその時―――。


その一瞬の隙を突いて長岌は義信の腰の脇差を奪い取ると
義信に襲い掛かった。


状況を把握出来ず戸惑う義信の前に襲い掛かる白刃。



その白刃を防ぐ楯となったのは三条の侍女・萩乃だった。



崩れ落ちる萩乃に三条は叫ぶ。
「萩乃!萩乃!」


「御方様、義信様は・・・」

後ろを振り返り義信を見ると萩乃は安堵した。

「ご無事で・・・」


「姫さん、誰よりも優しい姫さんにお仕え出来て。萩乃はほんに幸せでした。
姫さん。お幸せに―――。」

そう言って萩乃は旅立った。



寅王丸は武田信玄ではなく
武田義信に中にありのままの姿を見出していた。


互いの憎悪の果てに生み出されたものは

今までずっと側にいてくれた人の死。
人を殺してしまった。

そこからくる悲しみだけだった。





勘助に取り押さえられた寅王丸はただただ泣いていた。


御館様・・・


寺に閉じ込めておけ。






その後、勘助は寺に戻った。

平蔵はもういなかった。


伝兵衛と太吉が平蔵を逃がしていた。


平蔵は伝兵衛に言い残していった。



寅王丸様をたぶらかしたは駿河の寿桂尼だと。
裏で糸を引いたは駿河の寿桂尼だと。




寿桂尼・・・寿桂尼め・・・寿桂尼。



この勘助の怒りは駿河を揺るがす大事件となっていく―――。








長岌となった寅王丸を演じたのは柄本佑(たすく)さん。

柄本明さんのご長男さんですね。

でもって一緒のシーンはありませんが
春日弾正演じる田中幸太朗さんとはドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」で共演してました。

ここでも坊さん役でしたけどね(笑)

もひとつ付け加えるなら回想シーンに出ていた
寅王丸の母・禰々を演じていた桜井幸子さんも出演していましたね。







さてさて


今回は信玄暗殺の中で
三条夫人と義信の今後の行方を暗示させるような展開になっていました。



義信に子が生まれた。

その吉報に武田家は喜びで包まれます。



この時が三条夫人にとって一番の幸せだったのでしょう。

そう、この時までは。



桶狭間以降、義信は一気に窮地に追い込められます。

今川義元が亡くなった事で
松平家など離反する者が続々と現れ今川家は急激に弱体。

信玄は三国同盟を破り駿河に侵攻を画策していきます。。


これにより今川家の娘を妻にしている義信は憤慨します。

そうして父・信玄と対立し、最期は東光寺に幽閉され自害してしまいます。


ちなみにドラマや今回の風林火山紀行でもあったように
諏訪頼重が幽閉され自害したのも東光寺です。

そして諏訪頼重の墓の隣に武田義信の墓があるそうです。



これから先の事を考えれば―――


(勘助と信玄の策によって犠牲になった寅王丸によって)
いつも側にいて自分の言いたい事まで言ってくれた侍女を失い

(信玄の駿河侵攻画策によって)
自分の生きる拠り所となっていた長男も失い

(信玄が三国同盟を破棄した事によって)
また北条家より戻ってきた娘が悲しみに打ち震えたまま失い



三条夫人にとって悲しみと苦痛に悩まされる日々が続いたのかもしれません。

その始まりはこの日からだったという事でしょうかね。




萩乃って結構口やかましい存在でしたが
ああやって三条夫人の大切な者のために命を懸けた姿を見ると
とっても悲しくなっていきます。

ちょっと涙ぐみました(; ;)




括弧内の事で考えれば

寿桂尼が言ったように客観的な見方をすれば

武田家の「欲」によって
信玄の身内は犠牲になったと言えるでしょうね。



しかし、寅王丸の母・禰々は亡くなる前に
兄・信玄にひとつの願い事をしました。


諏訪は由布姫にお願いしたい。
寅王丸には諏訪を継いで欲しくない。

寅王丸には兄上のようになって欲しくない。

戦を継いで欲しくない。




だからこそ、信玄は寅王丸を出家させて
諏訪の地を由布姫に任せたのですからね。



結果だけ見れば、そう映るかもしれませんが
その結果に至る過程を見れば

武田に関しても同情する余地があったって事ですね。


そんな御館様の思いをあの寿桂尼は踏み躙った。


由布姫様の弟御をこのように狂わせてしまった寿桂尼を
勘助は許す事が出来ないようです。





まぁ勘助のように非情になれなかった平蔵ではありますが
御館様暗殺を画策したのが「駿河の寿桂尼」と言って
「越後」の名を一切出さなかった辺りは結構したたかです(笑)


そうして勘助の怒りの鉾先が今川に向かうと。

次回はあの「桶狭間」

次回はそのタイトルに「謀略」と付いているのがポイントになっていますね。

果たして、勘助はどのような謀略を用いるのか
ここが次回の一番の見せ場になってくるようです。

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