フルスイング 第5話 「先生のセンセイ」

高畠さんは選手に寄り添い一緒に歩いてくれる人だった。
高畠さんは人に教える時、頭ごなしに言わなかった。
一緒になって悩んで考えてくれる人だった。

「自分の道は自分で切り開け」

それが高畠さんの教えでした。




校内で3年4組の佐伯がサッカー部の後輩を殴った事件が起きた。



どういう事なの?

別に。むかついただけ。

むかついただけ?
あなた、サッカーで京南大学の推薦入学が決まっているのに・・・


推薦入学というのはあくまで内定でしかないんだ。
問題を起こした場合、どうなるか考えての行動か!


天童先生は机を叩いた。
しかし、佐伯は全く気に留めていなかった。


卒業してしまえばいい。
そんなうわっついた気持ちでいたんじゃないのか。


反省しています。すいませんでした。

佐伯は天童先生の目を最後まで見なかった。

佐伯の目は終始澱んだままだった。





それから佐伯の処分について職員室で話し合われた。

事を荒立てたくないと考える教頭に対して

生活指導の天童先生が決めた処分

申し上げます。
今回の件に関しましては
佐伯本人に十分な反省が認められるまで
無期停学処分が妥当だと判断します。

佐伯が校内で無抵抗な下級生に暴力を振るったのは事実です。
推薦入学内定者としてあるまじき行為です。


ちょっと待って下さい。
たしかに佐伯には何らかの処分が必要だと思います。
ですが、この時期に無期停学などと・・・
推薦入学を辞退させるおつもりですか?



天童先生
先生は正しい事を仰ってると思います。
無抵抗の人間を殴っちゃいかんですし、
処分も当然です。
ですが、処分の決定はもう一度佐伯に
事件に至った理由をキチンと聞いても遅くはないかと



理由はどうあれ
彼のやった行動と重みは変わりありません。
そうでしょ?
各大学に推薦する生徒というのは我が校のお墨付きをもった
いわば代表者です。

暴力行為を犯した生徒を我が校の代表者だと言って
大学に送り出していいと言うんですか。


「ばってん、このような時期にそげな処分を・・・」

このような時期だからこそです。
おそらく本人も無期停学になるとは思ってはいないでしょう。
それはですね、我々の打算や体裁を見抜いているからです。
今敢えてここに踏み込まなければ我々は真の教育者とは言えません。

悪い事をすれば重く罰せられる
これは社会の中における当然のルールです。




「皆さんのお考えはよく分かりました。」

校長は決断した。
「誠に遺憾ですが佐伯は無期停学処分と致します。
従って京南大学の推薦入学も内定取り消しと決定致します。」







翌日、高林は佐伯の事が気になっていた。

佐伯の推薦入学取り消しの件で天童先生が佐伯と彼の母に報告していた。


その報告を終えた後、佐伯は天童先生を睨みつけていた。


処分に不服そうな顔をしているな。
だが、おまえは自分のやった事を反省し、その責任をとらなきゃならない。



あんたなんか何も知らんくせに・・・
知らねぇでえらそうな顔をすんな!
俺の将来、あんたなんかに決められてたまるか!


佐伯は側にあった消火器を持ち上げ廊下に叩きつけた。


天童は微動だにしない。


俺の推薦蹴った事、一生許さんけんな!







あなたは佐伯があんな風になるまでどうしてほっておいたんです?

天童先生は高林に尋ねた。

我々大人に何かを伝えたい場合
子供というのは必ず信号を出すんですよ。

佐伯もきっとあなたに何かサインを出していたんですよ。

それにあなたは気付かなかった。



・・・天童先生の仰る通りです。


あなた、これから彼をどう指導するつもりですか?

自分が人を殴ったせいとはいえ、
あいつは今まで経験した事のない挫折を味わっとると思います。

だから、まず何があいつをそうさせたのか
その訳をちゃんと知ってやろうと思っとります。

あいつは訳もなく人を殴る子供じゃありません。
やけっぱちのまま、あいつを卒業させちゃいかん。

わしはあんな可愛いやつをほっとけんのです。



しかし、彼は今我々を恨んでますよ。
そして、心を開いてくれますかね。



こっちが聞いてやろうとせんければ
開くもんも開かんでしょう。






天童先生に言われて高林は思い出した。


佐伯は推薦を決めていた。
だが近頃、どうも服装が乱れとった。

今思えばサインを出していた。

しかし、わしは何もわからんかった―――。






それから、高林は時任と一緒に佐伯の自宅を訪ねた。

佐伯は一向に出てこなかった。
両親も不在だった。








デジャブみたい。その話。

高林は今日あった出来事を妻に電話で話した。


みっちゃん、なんだか昔と同じ事やってる。

コーチの時もそうだった。
戦力外通告を受けた選手の第二の人生まで世話していたじゃない。

面接にいけとか再就職の職場を訪ねたりとか。

特にてこずった人程、可愛い可愛いって。



まぁ昔の自分と重なるんやろな。

悪がき程ほっておけないんだろうな。



それから高林は息子・浩平とも話した。


久しぶりの息子との会話。


浩平、最近帰れなくてすまんな。元気でやっとるか。

「うん。」

野球の方はどうじゃ。気力でがんばっとるのか。

「・・・・・・うん。」

ほうか。練習はつらいかもしれんが続ける事が大事なんじゃ。
続ける事が一番えらいんじゃ。


「もういい?宿題してくる。」


どうも最近は浩平の様子がおかしいらしい。

最近は話し掛けても返事しなかったり。

そういう時期が来たのかもしれない。

妻は夫に尋ねた。

この前の話、私に東京がいいと言われたらどうする気よ。

浩平が中学卒業したら一緒に暮らすって。

本気で考えてくれてた訳じゃなかったの?
遠くの我が子より近くの他所様の子が大事なの?


そういう言い方は・・・

わかってる!
わかってるけど言いたいの。


今の高林にとって心配なのは目の前の佐伯だった。






ある時、廊下に天童先生は落書きを発見した。

それは天童先生の落書きだった。


それを若松先生も見つけ、その落書きを消そうとした。
天童先生は若松を呼び止めた。

いや、そのままで結構ですよ。
何も描かれることのない教師よりマシですよ。


そうして何もなかったように彼はその場を去っていく。






その頃、学校に佐伯の父親が正式に無期停学処分の取り消しを求めてきた。
もし、取り消しを聞き入れなければ署名をとって天童先生の辞任を要求すると。

佐伯に反省の色がない限り、処分を取り消すべきではないと思います。

しかし、佐伯の父親が署名を取り始めれば騒ぎがますます大きくなると言う。

教頭先生、あなたはこの桜台を辞めれば
この騒ぎが収まるとでも仰るのですか?


教頭先生の言葉は如何にも天童先生を辞めさせて
事態の終結を図ろうとしていた。

そんな教頭の思惑を校長は振り切った。
「天童先生、何があっても桜台を離れないで頂けますね?」

「あなたの方針に最終決定をしたのは私だ。お辞めになられる事はない。」

そんな校長の言葉に動じる事なく天童は言う。

自分の引き際は自分で決めたいと考えています。






その日、太田先生の弁当は愛妻弁当だった。
高林先生にも食べてもらおうとかなり腕をふるったらしい。

食事をしながらも
佐伯の事を心配する高林に太田がこう言った。


うちじゃありがちな家庭環境です。
一見、裕福で立派に見えても
子供のことは普段意外に無関心で
生徒達、あんまり構われてません。

大人から優しくされたり褒めてもらったりって事がない子が多いのかも。

佐伯みたいな人懐っこい生徒はそういう優しさに飢えているのかもしれません。





その言葉に何かを感じた高林はその翌日から何度も佐伯の自宅を訪れた。






どうも冷え込みが厳しく高林は風邪をこじらせていた。




その頃、職員室では天童先生は胃腸薬を飲んでいた。

胃炎を患ったらしい。
かれこれ長い付き合いらしい。


佐伯からまだ反省文は届いていなかった。








それから数日後、天童はとあるサッカー部の練習風景を見つめていた。


彼の姿を見つけて、そのサッカー部の監督らしき人物が天童の下に駆け寄ってきた。


天童はその人に深々と頭を下げた。

はじめまして。お忙しいところを本当に恐縮です。
私、桜台高校の天童と申します。








それから天童先生は校長先生がいる校長室を訪ねようとしていた。

その時、教頭先生の甲高い声が聞こえてきた。

『不当な処分を推し進めた天童先生は辞任しろ!』
佐伯の両親がそう呼びかけて、現段階で
天童先生の辞任を求める署名が桜台高校に送られてきていたと言う。

こちら側の返答によっては更に署名運動を続け
その結果を踏まえて校長には考えてもらいたいと。

このままでは裁判でも辞さない勢いのようだった。


「天童先生は以前私に『校長、私は教壇で死ねたら本望ですよ』と言ったんです。
彼の身体が動く限り、私は教員を続けて欲しいと思っています。」

教頭は食い下がる。
「漬物石と称される厳しい天童先生の教育方針は受け入れられ辛い風潮があります。」

「天童先生は温かい人ですよ。心まで漬物石になんかなっていません。」

「これまで御高齢により勇退も話し合われてきた。
しかし、それを天童先生に配慮してずっと留めてきたとは校長先生ばい。
ばってん今回ばかりはそうとはいかんとですよ。」

「私の考えは変わっていません。
天童先生を追い出すくらいなら私はここを去る覚悟です。」

「え?・・・校長先生・・・」

「天童先生はうちにはなくてはならない人だ。生徒達のみならず先生達にとってもね。」


校長先生の言葉を聞いて
天童先生はドア越しから校長先生に頭を下げていた。






その日、高林先生は帰り道、阿部と出会った。

阿部の妻が妊娠したと言う。

高林は我が事のように喜んだ。

それを酒の肴に酒を酌み交わす二人。


まだ三ヶ月だから男か女は分からないらしい。

でも生まれてくる子供には
自分の道は自分で決めてくれたらと阿部は考えていた。



その言葉に高林はかつて
自分もコーチ時代、「自分の道は自分で切り開け」と書いた事を思い出した。


高林は阿部に尋ねた。
子供をもう一度夢に向かわせるためにはどうすりゃええもんかのぅと。


自分の好きな言葉にソッタクドウキがあるとです。

そったくどうき?

阿部は高林のメモに書き記した。







そつは卵がかえる時に雛が殻の内から鳴く声。
たくは親鳥が外から殻をついばむ事を表します。

つまり卵がかえる時に

親と子、師匠と弟子のタイミングが合うのが
理想の指導っちゅう意味です。


ほう。

今、高さんがやっとる事はこれやらですか。
生徒のサインば見て一生懸命殻をついばんでおる。


ほうか。あいつはあいつで必死に鳴いておるんか。

高さんは間違っとらんと思います。
きっと後一息でもうすぐ雛に会えます。






その夜、高林は阿部が教えてくれた言葉をノートに書き記した。

「自分の道は自分で切り開け」と書いた文字の下に











翌日、佐伯は公園にいた。


そして高林は佐伯を見つけた。


佐伯は何かに怯えるように高林から逃げ出した。


高林は佐伯を追いかけた。




今日は謝りに来たんじゃ。

おまえさん、わしに何か聞いて欲しい事があったんじゃろ?
佐伯、言いたい事をぶっちゃけてみぃ。

おまえさんがただ人を殴る訳やない。



言っても俺どうせ無期停学やろ?


まぁそう言わんと腹ん中出してみぃ、佐伯。


佐伯、佐伯って呼ぶな!

もうすぐ俺、佐伯でなくなるったい!

うちの親、もう離婚の話し合いついとるったい。
あいつら、大分前から俺の親権で揉めとる。

あいつら、教育熱心なフリをしてあんなの嘘っぱちったい!

殴ったのは俺のせいじゃなか。
悪いのは親と。
親のせいたい。




言いたい事はそれだけか。
はっきり言ってわしはがっかりじゃ。


何て?

甘えるな!!


佐伯。何でも人のせいにするな。甘えちゃいかん。
そんな事じゃ道は開けん。



うるせえ!


佐伯は川に向かってボールを蹴った。


川辺にボールが浮かんでいる。


佐伯は涙を滲ませていた。

何で俺だけこんな目に遭うとや?



そんな佐伯に気に留める事がなかったかのように
高林は黙々と川に向かって佐伯が蹴ったボールを拾い上げた。


これからどう進むか。
その道はおまえさんが考えていかにゃ。

誰もおまえさんにはなれんのじゃから。



推薦は取り消された。もう道なんかねぇ。
天童のせいや。



天童先生が学校辞めさせられても、おまえさん平気か?
天童先生、今学校に辞めろと言われとんや。

おまえさんの処分が厳しすぎてご両親が署名運動しとる。



・・・うちの親がやりそうな事やね。
天童も自業自得やん。
人の将来無茶苦茶にしたけんたい。



そんな事をして天童先生に何の得がある。

そんな事を知るか!

天童先生はおまえさんに恨まれる事を百も承知で筋を通した。
何でじゃ。


ふと佐伯の憤怒が止まる。

おまえさん、今が正念場じゃ。
ここで全部を人のせいにして逃げるか
それとも立ち向かうか。




高林は佐伯に拾ってきたボールを差し出した。


ちゃんと道はある。
おまえさんにも見えとるんじゃろ?


佐伯は高林からのボールを受け取った

明日は絶対学校へ来い。

・・・俺、自宅謹慎中たい。

かまわん。わしがお前さんの側にいたいだけじゃ。
約束やぞ。わかったか。

待っとるぞ。



そして高林は・・・倒れた。












気がつくと高林は自分のアパートにいた。

風邪をこじらし、かなり熱が出ていたらしい。
それを無理したために倒れたものだったらしい。


佐伯から学校に連絡があったらしくて
時任先生と事務員の方々が高林先生を看病していた。


時任は高林に尋ねた。

先生、佐伯とお話になったんですか。

ええ、ほんのちょっとだけですけど。
あいつはただかもうて欲しかっただけなんです。



ふと時任はノートが目に止まった。


見せていただいてもいいですか?

そして、時任は高林の許しをもらってノートを開いた。


高林は言う。
今でも時々見るようにしとるんです。

今回の佐伯のことやら授業の事など
道に迷った時にはそこにヒントがあるような気がして。

あいつにも早く次の道を見せてやらんといけんなぁ。


彼には夢があった。
でも、その夢を果たすきっかけを見失った事で
自分の夢が果たせないかもしれない事に絶望していた。


佐伯はもう目標をもっとるんです。
プロのサッカー選手になるっちゅう夢を。

あいつは本気やった。
わしはもう一度大学でサッカーやれるように応援するしかないでしょうが。

まずはあいつに自覚をもたせにゃいかん。

自分の道は自分で切り開くしかないんじゃと。







翌日、高林は学校に来た。

そして佐伯もまた学校に来た。
約束を守って。


よう来たな。よう来た。


そうして高林は佐伯に事務の仕事やら花壇の水やりやら学校の雑務をやらせていった。


先生方、用事があったらこの佐伯にどんどん言いつけちゃって下さい。




雑務を行う佐伯の様子を教頭と校長は見ていた。


「校長、私にも一言相談頂いてもよかやなかですか。」


「相談したら反対するでしょ?」


「そりゃ規則ですたい。」


「まぁまぁ高さん流のやり方を拝見しておきたかったんですよ。
これが私が抱える最後の懸案になるかもしれませんからね。」

校長は覚悟を決めていたようだった。




それから、佐伯はようやくひと仕事を終えていた。



お疲れさん、これ暖まるよ。
太田先生は佐伯に昆布茶が入った湯飲みを差し出した。


佐伯は両手で湯飲みをつかんだ。
あったけぇ。

佐伯から安堵の表情が生まれる。


しかし、光の見えない現実を思い出すと再び彼の表情は曇っていく。

先生。こげん事、いつまでやらされると。

さぁな。神のみぞ知るかのぅ。


得があると?


しぃて言えば、おまえさんの顔が見られるって事か。

はぁ?

佐伯、推薦がのうなっても
おまえさんの前にはまだまだ色んな道が開けとる。
ええなぁ。楽しみじゃな。
おまえさんの未来は輝いとんじゃ。



佐伯はそんな高林の言葉に喜べなかった。




そして佐伯が職員室を出ようとしたその時、天童先生とバッタリ出会った。


佐伯は天童を睨みつけてその場を立ち去った。




そして、帰路につこうとした時
佐伯のロッカーに手紙らしきものが置いてあった。






高林先生、佐伯は謹慎中の生徒なんです。
勝手に謹慎プログラムを変更されると混乱が生じます。
生活指導部の許可を得てやって欲しいものですな。


生徒達が帰った後、
天童先生は今回の高林先生がした事に関して
規則を乱すとしてしっかり注意をしていた。


はぁ申し訳ありません。
じゃが自宅に閉じこもってもあいつは変われんような気がして。

こういう時こそ傍で見といてやる人間が必要なんじゃと思いまして。
わしゃどんなにうざいと言われようがあいつの傍についててやりたいんです。
あいつには逃げずにちゃんと前を向いて欲しい。

わしゃあ30年間選手達とこういう風にしかやってこんかったから
今更他のやり方が出来んかったとです。



教員生活40年。
あなたのような教師を見るとは思わなかった。

まぁ最初で最後かもしれませんが。


天童先生はそんな出来事を喜んでいるかのようだった。

そして彼は高林に一礼してその場を後にした。









翌日、若松先生が40周年の資料を整理した時に一枚の写真が出てきた。

それは40年前の天童先生の写真だった。

懐かしい。

天童先生に笑みがこぼれる。

「きっと生徒に人気があったんでしょうね。」

教師に人気は必要ありませんぞ。


「俺、この頃感じるんすよね。
生徒の人気者になるよりも
生徒に厳しい事を言う事の方が難しいって。」


その言葉が自分が目指したものだった天童先生は思わず
笑顔で若松先生に語りかけた。

苦言を呈した者は大きな責任を伴う事がある。
時にその言葉は相手の人生を左右しかねない。
人に物を教える本物の教師になる事。
若松先生、なかなか難しいものですぞ。



これから自分が進もうとする道に光を照らしてくれる老先生の言葉に
若松先生は嬉しくなった。






それから間もなく、高林の下に佐伯が走ってきた。








俺、やっぱサッカー続けてぇ。
マジで大学行ってサッカーやりてぇ。
今んとこ、やっぱそれしか考えられん。


佐伯の目はキラキラ輝いていた。


自分で道を決めたんじゃな。

でも、もう俺、おせぇかな。

遅いことはあるか。今日から毎日わしがおまえさんの事、サポートしたるけん。

よかよ。もう先生にはすげぇ応援してもらったけん。

そうして佐伯は一通の手紙を高林の前に差し出した。

それは京南大学サッカー部の監督からの手紙だった。


『本試験で頑張ってうちに来て下さい。一緒に大学日本一目指しましょう。』
手紙にはそう書かれていた。


俺涙出る程やばくてさぁ。
何度も何度も読み直してさぁ。
こげなもんもらったからには
絶対自分の実力であの大学うかっちゃると思ったけん。



高林はこんな事をしていない。


先生、色々ごめん。
後、マジありがとう。



残念じゃが、ここまでスゴイ事が出来るのはわしじゃないなぁ。


え?

今までどっしりと構えて
おまえさんらの事見てくれてる人がおるじゃろ。
わしが知っとる中でこれ出来んのはあの先生しかおらん。



佐伯は高林先生以外にそんな事をしてくれる先生を思い描いた。

そして一人の人物が思い浮かんだ。


その意外な人物に目を丸くしていた佐伯に高林は頷いた。









天童先生。

天童先生の後ろから高林先生が声をかけた。

天童先生が振り返るとそこには高林先生と佐伯がいた。



天童先生、辞めないで下さい。俺、頑張ります。
京南大学一本で狙っていきますから。


天童先生は優しく笑い掛けた。


これ、ありがとうございました。

天童先生、わしからもありがとうございました。


たちまち天童は険しい表情になっていく。

佐伯。
これだけは言っておくぞ。
知らずに将来、困るのはおまえだからな。

消火器は投げるもんじゃなか!
火を消すための道具たい。


そう言い終わると先程のようにまた優しい笑顔になった。


戻ってきてくれて嬉しかったよ。
あぁ良かった。



佐伯にも笑顔になった。


君なら頑張れる。大丈夫だ。

そう言って、背を向けて立ち去る天童先生に佐伯は大きく頭を下げた。
高林も時任もその場を立ち去る天童の背中に頭を下げた。





その日から佐伯は変わった。

京南大学合格を目指すために一生懸命勉強に励んでいた。

その先にある大学のサッカー部で活躍するために。




何だか嘘みたいな光景だった。

問題を起こした頃の佐伯とはその表情も変わっていた。
そして教室の空気も変わっていた。

大学のサッカー部の監督も彼の力を買っていたらしい。
たまには高林流もいいかなと思いまして。


まるで、もがいとった雛がかえったようです。


これがあるから教師が辞められなかった。
しかし、気がつくと40年なんて時間はあっという間ですな。












それから天童先生と高林先生は二人きりで話していた。


私、今年度でこの学校を辞める事にしました。


え?先生の辞任要求は取り消されたはずじゃ・・・


いや、誤解しないで下さい。
そのせいで決めた訳じゃありませんから
それに教員生活を止める訳ではありません。

田舎の幼稚園なんですが
園長にならないかと古くからの友人が声をかけてくれましてね。
残り少ない教員生活、私のような者でもお役に立てればと思いまして。

高林先生、教師にとって最良の教師は誰だと思います?
生徒なんですよ。

我々が生徒を成長させるのではなく
彼らが我々を育ててくれるんです。

小さな先生達から多くの物を学ばせてもらおうと思っています。



天童先生の言葉に高林は感激した。

やっぱり天童先生はわしの先生じゃ。

いや、この年になって新しい環境に身を置くとは思ってもみませんでしたがな
それはきっと、高林先生。
あなたの姿に触発されたのかもしれませんぞ。


いやぁわしなんか、近頃めっきり体力が衰えましてねぇ。
後何年やれるかわからんです。



早々に辞められては困りますぞ。
私に代わってここに漬物にのっかる人間も必要ですから。
ねぇ高さん。


ありがとうございます。

高林は笑って天童先生を見送った。



天童先生は廊下を歩いていた。

ふと廊下の落書きに目が止まった。

自分の落書きが増えていた。


『まだまだ現役96歳』

それが天童には何より嬉しかった。

自分はまだまだ誰かに必要とされている。
そして生徒達の心に残れるような人になれている事に―――。






さて、今回の高林の言葉は







これってどうも文字コードが対応してないので
手書きにしました(笑)

この言葉の意味は
そつは卵がかえる時に雛が殻の内から鳴く声。
たくは親鳥が外から殻をついばむ事を表します。

つまり卵がかえる時に

親と子、師匠と弟子のタイミングにある


そのタイミングによって子は成長していくという事ですね。

また、弟子が師匠に学ぶように
師匠もまた弟子に学ぶところがあるって事ですね。


今回はその部分が色濃く出ていましたね。


今回のこの言葉も
今までの高林の経験ではなくて
阿部から教えてもらった言葉ですしね。


そして、天童先生が
柄にもなく京南大学のサッカー部の監督にかけあったのも
今年度で学校を辞めて幼稚園の園長になる事を決意したのも
高林という存在に触発されたから。


教師は生徒に教える過程で
生徒に学んでいって成長していく。


高林先生にとってのセンセイは天童先生であり
阿部センセイであり

天童先生にとってのセンセイは生徒であり
高林先生であり

人と人はそうして
教えてあげたり教えてもらったりして
日々成長していくんでしょうね。



また、一方で大事なのは先生としての先生たる信念。

たしかに進学・受験は大事。
でも社会通念を教えてやる事も大事。

「悪い事をすれば重く罰せられる」と天童先生が言ってましたね。

そういう事を注意してあげられる大人達がいないんでしょうね。

自分が正しい事をしたとしても
それで生徒がキレて暴力紛いの行為で自分を脅してきたりする。

もしくは生徒の親が自分に圧力をかけてくる。


だから、そういうのが怖かったりして
出来るだけ穏便に済ませようとする。


だからこそ、天童先生のような漬物石と呼ばれる
重石のような存在が必要なんでしょうね。


でも、彼はただ厳しいだけじゃなくて
自分の言葉で生徒の人生を左右するために
心を痛めていたりもする訳で。

そうした苦悩が天童先生の言葉で語られる事はなかったですが


職員室で胃腸薬を飲んでいたシーン。
長いつきあいで胃炎を患っていたってところに
そうした天童先生の苦悩がそれとなく描かれていたのだと思います。


まぁ突き詰めて考えれば
そういう天童先生を理解してくれるトップが一番大事であるって事に繋がってくるのかもしれないですね。




まぁ自分も出来れば生涯現役でやっていきたいものですね。



そんな天童先生を里見浩太朗さんが見事に見せてくれますねぇ。

里見さんといえば「長七郎江戸日記」よく見てました。

あの立ち回りとか太刀捌きとかが好きでねぇ。


でもって、水戸黄門では助さんを演じていたんですが
今ではもうすっかり水戸の御隠居を演じる年齢になっていたんですね。


とはいえ、落書きに印籠と杖を持たせるのはちょっとやり過ぎな気がするんですけどね(苦笑)



それからサッカー部の監督役は水内猛さんでしたね。


こっちにも驚きました。


さて、里見浩太朗さんは現在、「日本俳優連合」という
テレビ局や製作者と対等に出演交渉を結びにくい俳優の立場を解消するために
結成された組織の理事長をやっておられるそうです。

この組織が出来からもう四十数年以上の歴史があるという事ですね。


それから佐伯役を演じた佐野和真さん。

つい最近はTBS「肩越しの恋人」にも出演していました。
その時はどこか人に甘えたい感じの役柄でしたが
今回もそんな感じでしたね。

結局、前回のようにあんな事をしてしまったのも
先生達に気付いて欲しいサインだったって事なんでしょうけど。

ちなみに里見さんと佐野和真さんは何か縁があるのかもしれませんね。



里見さんの本名は「佐野」ですからね。





さて、来週で最終回。


どうも浩平には何かがあったけれど
そのサインは高林には届かないですね。

おそらく以前電話した時からその兆候があったんでしょうね。


そして、彼の病気をきっかけにおそらくは解決するのかもしれません。
なんかそれはそれでちょっと悲しい気がしますね。

こういう時じゃないと傍にいれないってのも。




まぁでも何はともあれ
来週の高林先生の「最後の授業」
しっかりと噛み締めて見つめてみたいと思います。

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この記事へのコメント

2008年02月17日 12:39
こんにちは。

いいドラマですね。
毎回泣いてるかもしれない(苦笑)
今回は天童先生が良かったなぁ。。。
厳しい決断をした後の優しい言葉に落ちました(笑)
里見浩太郎さん、私の母も長七郎良く見てて一緒に見てました。
だから時代劇のイメージしかないのですが、先生役も見事ですね。
高林先生と天童先生がいたら、鬼に金棒って感じです(笑)
もう来週が最終回!号泣間違いなしだと思います。
タカシ
2008年02月17日 13:39
若干、ハーフスイング的な中途半端なシーンも見受けられた
もののさすがに最後はぐっと来ましたねぇ~。

佐伯役の佐野くん、私は昼ドラの「砂時計」の大悟役の
印象が強いです。大悟がこんな子になるなんて・・という
思いでみておりました。

天童先生が良かったです。初回はちょっと石頭のダメ教師
かと思ったものの回を重ねる毎にすごい人なんだと判ってきました。
ikasama4
2008年02月17日 13:44
アンナ様
こんにちはです。

天童先生はここまで殆ど仏頂面でしたからね。
こういうギャップにヤラれてしまうんでしょうね(笑)

長七郎とか、あの頃は時代劇モノが多くて
自分はほっとんど見てましたね。

だから、髷姿じゃない里見さんはちょっと意外でしたが
ホントこの作品に見事にハマってますね。

高林先生と天童先生のツートップ
たしかに最強の布陣ですね(≧∇≦)b


来週は間違いなく号泣の嵐ですね(T▽T)
ikasama4
2008年02月17日 13:51
タカシ様
私も最初は天童先生を単なる堅物の人ってしか
思ってみませんでした。

ただ、彼は言葉ではなくて
行動で実践する人だったみたいですね。

人の印象も最初はそういうものかもしれんですね。

その人の内面性というのは
時に反発しながらも、ちゃんとお互いに向かい合う事で
ようやく見えていくものなんでしょうね。

佐伯さん役の佐野さんもいい演技でした。
序盤の死んだ目の表情から終盤で夢を取り戻した時の輝く目の表情。

多分、スタッフはここの演出を重要視していたと思うんですが
それを見事に応えていたと思います。

「肩越しの恋人」の時にはあまり印象がなかったんですが
この作品を見てると今後が楽しみになってきました(^▽^)
らいと
2008年02月17日 14:57
私も、フルスイング毎回見ています。
天童先生の役どころ、本当に難しいと思いましたが、
里見浩太朗さんが見事に演じられましたね。
フルスイングのサイトの中に日記がありますが、
そこで、里見浩太朗さんのお人柄も触れています。
ご自身も素敵な方だと知って、やはり俳優さんは
演じる役にもお人柄が出るのだなぁと思いました。
ikasama4
2008年02月17日 15:44
らいと様
はじめまして。
天童先生は最初は無表情で堅物&仏頂面って
感じなんですが、徐々にその内面性を知ると
どうして堅物でなければならないのか
それが分かるような感じになっていて
それを里見浩太朗さんはホントに見事に演じられてました。

私もこの作品が放送された時にHPの日記とかを読みました。

この作品に賭ける意気込みと共に高橋さん、里見さんをはじめ
様々な俳優さんの人柄がこのドラマに滲み出ている感じがしますね

それと共に単なる演技という芝居ではない
その人の本気の芝居がこの作品にはあると思います。

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