風林火山 第48話 「いざ川中島」

上杉政虎は川中島へ出陣した。


「決戦・川中島」


その火蓋が今、切られようとしていた。



駒井からの海津城による報せによると


上杉軍は14日に出陣し昨日、善光寺に着陣したとの事。

その数、およそ一万八千。


その報せにより一万八千の軍勢により
海津城は既に落ちたと考える家臣達。

一方で馬場信春は海津城は守るには堅固なる城なために
落ちる事はないと考えていた。

ただし、一刻の猶予もない今、直ちに出陣するべきだと
家臣の意見がまとまっていた。




いいや、急いては敵の思う壷じゃ。


御館様の命に勘助が応える。


海津城は落ちませぬ。
越後勢は攻めかかりも致しますまい。

海津城を落としてしまえば
またも御館様を引き寄せる事が出来ぬからでござりまする。

御館様を引き寄せねば
また、此度も決戦にはなりますまい。

それは敵は最も望まぬ事と存じます。

明日、また報せが届く事でしょう。

それを待ってからでも遅くはないと存じまする。









海津城を捨ておけ


勘助の進言は的確であった。


弱き者をいたぶるのは我が好む事にあらず。
我らはこのまま八幡原を迂回し、千曲川の浅瀬を渡り、この山に陣を敷く。



政虎の策に驚く上杉家家臣達。

政虎は平然と語る。


勝たねばならぬ。

勝つにはまず、武田と戦わねばならぬ。

信玄を我の前に引きずり出さねばならぬ。



政虎が海津城の眼前に迫ったのはその日の夜であった。





上杉軍は後詰五千を善光寺に残し、本軍は妻女山に陣を敷いた。

武田に退路を絶たれる事になろうとも。








あえて我らの背後に。


信玄の決断した。


直ちに出陣する。


敵はわしに退路を差し出し
あえて死地に身を置き決戦を挑んできたのだ。




武田とて覚悟では負けてはない。

斯様な敵と相まみえますのは二度とありますまい。
正に生きるか死ぬかの戦。




この戦の勝敗は敵にとってもまた武田にとっても
その覚悟の固さが分れ目となる。

皆、心して出陣に備えよ!





その日、不動明王の前で祈りを捧げる信玄に三条の御方が参った。




此度は今までにない激しい戦となろう。
ひたすら神仏の御加護を負わねばならまい。

己が為ではなくこの甲斐、信濃の為に。



お前様に迷いはございませぬか。

迷いはない。・・・すまぬ。
わしが戦をする度にそなたにいらぬ迷い、怖れを抱かせてまいった。
世の習いとはいえ、わしが妻となってつらかった思いをばかりさせたのう。



さようにお思いでしたら、私のためにお勝ち下され。


信玄は振り返り三条の方を見やった。


お勝ち下され。
私を一人になさらないで下さりませ。

お勝ち下され。



相分かった

信玄は必ずや勝って帰ると妻に誓った。




出発の朝、勘助は槍の稽古に励んでいた。
いつにもない決戦にその気迫は鬼気迫る勢いであった。



「父上。」


初めて娘に呼ばれるその言葉に勘助はリツの方へ振り返った。

「父上の御心のまま、リツは嫁ぎまする。
されどリツは貴方様の娘でございます。
父上の心内にどなたがおられましょうとも
最後はこのリツのためリツの元へお帰り下さいませ。」


リツ。


勘助とリツは摩利支天に手を合わせた。
おもむろに摩利支天を見て、握り締めた。



太吉の子・茂吉にも子が生まれていた。

しばしの別れになるのか
永久の別れとなるのか、それは誰にも分からない。




これより出陣致す。


「山本家の事はリツにお任せ下され。リツが留守を守ります。」
リツは勘助を笑って見送った。

頼むぞ。リツ。
帰ったらそちの祝言じゃ。

では、行って参る。



「父上、御武運を。」




かくして八月十八日、武田軍は川中島へ向けて出陣した。


その途上、勘助は御館様の許しを得て諏訪へ立ち寄った。

元服した由布姫の子・勝頼を迎えるために。


勘助は由布姫の墓前に手を合わせた。


この時だけ勘助は己を曝け出す。

姫様。いよいよ御館様が越後勢と雌雄を決する時が参りました。

勘助はこの日のために生き長らえ
戦に明け暮れ、姫様にも御寂しい思いをさせました。

されど、間もなく、もう間もなくにござりまするぞ。
ここへ、御館様が戦勝をお知らせに参りましょう。

姫様がお好きな御館様が。

姫様、もうひとつ申し上げねばならぬ事がございます。
勝頼様の御初陣にござりまする。

あの四郎様が立派にご出陣果たしまする。
四郎様をお産みになる事は姫様も随分お苦しみなさりましたな。

あの冬の日は寒うござりました。

あれはまるでつい昨日の事にござりまする。

されど、これまでの苦労も全て報われまする。

この勘助に勝頼様のお供を仕るのです。
これよりお迎えに参りまする。



そして四郎様をお迎えしようと向かおうとする勘助の手を誰かが引いた。


勘助。


―――姫様。


姫様は首を振った。

勘助、なりませぬ。


勘助は首をかしげた。


何故、姫様は―――


思案の最中、四郎様が母の墓前に現れた。

そして、決断した。

母上の墓前に御初陣を飾る事を誓う四郎様に勘助は言う。


なりませぬ。
勝頼様はその五十騎を引き連れ諏訪の高島城にお入りにならねばなりませぬ。

御初陣はまだ早うござりまする。

後、1年待たねばなりませぬ。

これは御館様の御下知にござりまする。



それは勘助にとっても断腸の思いでの決断であった。

自分の大切な人を守りたいため、勘助はあえて「鬼」となる。




その夜、勘助は御館様にこの件を報告した。


勘助、そちの一存で決めたか。


申し訳ござりませぬ。


それもよかろう。

誰かが留守居をせねばならんのじゃ。
諏訪へ勝頼を残したは上策であろう。



は。


大義であった。下がってよい。




勘助がその場を去った後、信玄は駒井に尋ねた。

どうじゃ、駒井。
此度の戦に勘助は怯えておるか。



いえ、山本殿は御館様を御守りし、
その身を全て捧げんがため、勝頼様を引き止められたのでありましょう。



わしではなく武田家を守るためではないのか。


無論、御家を絶やす訳には参りませぬ。
しかしながら、山本殿は甲斐に来た時よりは御館様のためだけに生きておられまする。
いささか羨ましい。



駒井、そちは何としても生き残り、この武田家を守れ。

思えばわしが元服した頃よりわしの側から離れず、よう仕えてくれた。
そちがおらねば、今のわしもここにはおらぬ。

義信も勝頼もそちがいれば安泰じゃ。



それは違いまする。
某がお役に立ったとすれば、それは御館様であったればこそ。
御館様は誠によく人を見抜き見事に使われまする。


いや、わしの力ではない。

いいえ、此度の戦でその事を御自らお確かめなられましょう。




それから武田軍は上田に二日滞在し、その間に信濃衆が続々と終結した。


その数、およそ二万。

そして武田は上杉軍の退路を絶つ形で陣を敷いた。








武田の陣を見て宇佐美は平蔵に訪ねた。

御主ならば如何にする―――と。

平蔵は海津城を攻めると答えた。


それでは敵の思う壷じゃ。

海津城に攻めかかれば我が軍の背後を本隊に突かれよう。
本隊へ攻めかかれば我が軍の背後を海津城に突かれよう。

されば、敵の攻めを待ちまするか。

この山に攻めてはこぬ。
それは武田の不利じゃ。

何故、武田が退路を絶ったか。
すなわち、あくまでも我らから攻めかからせようとするのじゃ。

この戦、攻め急いだ方が負けじゃ。





武田は千曲川付近に陣を設けた。
これにより上杉軍の本隊が我らの背後に回る事は出来ぬ。



後の敵は善光寺におる五千の後詰に越後を守る兵達がいる。


敵は我らが越後に攻め入らぬため守りを固めてござろう。


我らが越後へ向かえば妻女山の本軍と挟み撃ちにするかもしれぬし
もしくは敵の本軍は甲斐にも向かうやもしれぬ。


それこそ敵の思う壷。


あくまで本軍と本軍が戦をしなければならぬ。
他の手を用いれば、敵に勝機を与える事になる。



御意。我らはこの地にて待てばよいのです。

「待つ?!」

この場において決戦を避ける勘助の策に馬場信春は憤った。

「怖れながら勝機は我らにありまする。」

勘助は冷静に言う。

攻め急いでは危のうござります。

「されど!味方の士気が下がれば危うい!」


それは敵も同じ事。
敵はやがて兵糧も尽き、討って出るしかございませぬ。

我らはそれを待てばよいのです。







しかし、上杉軍は動かなかった。



対陣して5日が経ったその日、武田は動いた。

全軍を海津城へ向かわせたのであった。







妻女山に陣を敷く上杉を軍を見据えながら。


信玄め。
あえて我らに退路を与えるというのか。


海津城に兵を進める武田を眺めながら
憎らしげに政虎は言う。

「しかし、全軍で海津城に篭るとは我らを誘っておるのか。」

その通りであろう。
我らが山を下れば武田は城を出て撃って出るであろう。
しかし、我らが山を降りなければ
武田に討つ手はないという事じゃ。


「しかし、それは我らも同じ事。この上、兵糧が尽きれば我らは動けなくなる。」


それは全て、天運次第。


天運?!

そのようなものにこの戦を任せるとは―――。




この戦、人の戦なれば我らが負ける。


政虎の言葉に驚く家臣達。
しかし、政虎は平然と次のように語った。


神の戦なれば我らが勝ちじゃ。









そして9月9日。
運命の時の前日。

その日は雨が降っていた。



上杉軍は乱取りをしてまで兵糧を確保するとの報せが入ってきた。
そこまでして妻女山から動かぬつもりらしい。

そこまでするとは政虎もただの人だと言う馬場であったが

いいえ、ただの人ならば当に疲弊し、攻めかかっておりましょう。

と勘助は言う。


どちらもこれ以上の膠着は望ましくなかった。


信玄は決断した。

かくなる上は我らより攻めかかる他はあるまい。


御意。

信玄は勘助・馬場の両名に命じた。

そこで何かの意見の割れる事の多い二人でその策を立てよ。



その時、相木より原美濃守が生きていたとの報せが入った。
川中島の屋代辺りの百姓の世話になって一命を取り留めているらしい。


勘助は御館様に願い出た。

御館様、某をお遣わし下さりませ。



勘助は原美濃守が世話になっているという百姓の家を訪ねた。


原殿はまだ傷は癒えてはなかったが元気そうではあった。


この家に住む百姓・おふくが原美濃守を助けたらしい。


おらはただ死にたくねぇという往生際のわりい奴をここに運んでくるだけ。

そして、おふくは原美濃守の命を救った事の褒美をねだった。
勘助は甲州金を一粒与えた。



勘助はおふくにひとつ訪ねた。

この川中島には濃い霧が出ると聞くが、それはいつ出るのか。


おふくは手を差し出した。

一粒与えたが、おふくは満足しなかったらしい。

勘助は数粒与えた。



おふくは空を見上げた。

「明日じゃ。」

明日?!

「晩方に雨が上がり、風向きが変わり、日が出れば間違いない。

明日の朝、川中島は霧の中。

一間先も見えたものではねぇ。」


空を見上げ勘助は思う。


今宵雨が上がれば、決戦は―――明日







いよいよ川中島が始まる、その時。


どちらも「敵の思う壷」にハマらぬように考えた結果が
「動かない」って事だったようです。


そこで決戦を焦ったのが信玄の方だったみたいですねぇ。


最近、巷で人気な「甲斐の河豚」(笑)








前回より繰り返しますが
第4次 川中島の合戦はこちらのサイトでより明確に描かれています。
http://www.furin-kazan.jp/nagano/tatakai/zukai.php


甲陽軍艦の内容であれば、これが正しいでしょうね。




今回、勘助が率いる兵及び旗は全て黒一色。
まさしく黒備えというやつですね。


一般的に僧が黒衣を纏うからというのに習ったのでしょうかね。



また、勘助が四郎様の初陣を引き止めしたのも
由布姫が現れた事の要因が強いのでしょうけれど
政虎との雌雄を決する戦においては

御館様の命も危うい。

そして四郎様の命も。


勘助にとってどちらも守りたい人ですからね。

どっちかを優先するかなんて勘助には出来ませんからね。

もし、御館様を守って四郎様に何かあれば。

もし、四郎様を守って御館様に何かあれば。


どちらも勘助にとっては耐え難いものだったのでしょう。


四郎の思いを踏み躙るような勘助の冷酷とも思える決断の裏には
四郎様への慈しむ心があったって事でしょうね。






さて、今回のドラマの一番の鍵を握る人物・おふく。



この女性を演じているのが緑魔子さんという女優さんです。


自分はこの女性の名前を知ったのは初めてでしたが
なかなか個性的な方みたいですね。


ちなみに彼の夫は俳優の石橋蓮司さん。


石橋さんは今川家家臣・庵原忠胤で出演してますからね。
夫婦でこのドラマに出演してるって事になりますね。



これもまた、ちょっと面白いところです。



さて、いよいよ決戦ですね。


どうも二話構成で「川中島」が描かれるみたいですねぇ。


もうすぐ終わりかと思うとなんか切なくなってきました。



普段は黒い雰囲気がする勘助と信玄ですが
己の守りたい者の為ならば

あえて黒くなって生きようとする姿が垣間見えます。


それだけにもうすぐ勘助がいなくなるかと思うと・・・ねぇ(T▽T)






まず次週はどうも信繁&諸角。

そして最後は勘助。


多分泣いてしまうんでしょうねぇ(T▽T)

個人的にはこれ以上亡くなって欲しくはないですね。
伝兵衛も太吉も、そして太吉の子・茂吉も。

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この記事へのコメント

2007年12月03日 00:12
図解も人物がもあって、充実してますね☆
先週からいよいよ合戦か!?と言う感じでしたが、また静かなまま終わってしまいました。

その分、次回は悲しい場面が多いかもしれないですね。
緑魔子さん、すっごく久しぶりに見ました。
あの風貌には驚きませんでしたが^^;
石橋蓮司さんの奥さんっていうのに驚きでした。

2007年12月03日 09:45
ikasama4さん、こんにちは。
>まず次週はどうも信繁&諸角。
みたいですね~予告を見る限り(><)「信繁&諸角」の関係って守り役以上の「おじいちゃん&孫」みたいな感じがしてほのぼのとするところがありましたよねぇ・・・諸角は戦で息子が全滅してるし、信繁にしても父親に歪んだ愛情を掛けれれていたけど負担だったでしょうし(兄はあんな調子だし)絆が強かったんでしょうかね。どっちが残されても可哀想な気もするので仕方ないかな・・・ともちょっと考えました。でも考えただけでちょっと泣けます・・・。
>そして最後は勘助。
う~んこれは多分、ワタシは泣かないと思います(笑)フグは号泣しますかね!?

本放送もあと2回・・・早いですね。今までクラブを盛りたててくださってありがとうございます。大河が終わっても引き続きお付き合いのほど宜しくお願い致しますね◎
2007年12月03日 19:42
こんにちは。
livedoor blogと相性が悪いようで残念!!!
でも、一度、ワタクシの所からこちらに飛んだ時だったかな?
コメント出来なかった日がありました。悲しい~

台詞の細部・分かりやすい図解付き、いつも感心します。
特に昨日は裏番組(対韓国戦)がアタマの大部分を占めていたので、
細かい部分はぶっ飛び、
胡桃ゴリッ、宇宙人ビワポロロン、金ぴか幽霊、謎の山姥…
これらがグルグル頭の中回っていました。
緑魔子さん、結構好きです。実は。

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