風林火山 第33話 「勘助捕わる」

勘助が越後で足止めをされている間に武田は砥石城で大敗を喫した。
「酒でも飲まぬか。道安。いや、山本勘助。」


その言葉を発した男に驚愕と戸惑いの目で見つめる道安。

その眼差しを宇佐美定満は笑って受け流した。


宇佐美と勘助は酒を酌み交わす。


いつから某の事を山本勘助とお疑いにござりまするか。

そなた、人を侮るのも大概にせい。

甲斐の国に隻眼の軍師ありとこの国にも知れ渡っておる。

未だ敵として相見舞えぬとしてものう。




そしておもむろに宇佐美は切り出した。



武田は信濃の次に越後に攻め入る計画か。


存じませぬ。


とぼけるつもりか。


武田が迫りつつある今、
越後は一刻も早く統一せねばならぬ。

そこでそなたを利用したのじゃ。

そなたが間者である事を見抜いていた。

甲斐は信濃の次に越後を攻め入るであろう。
景虎はそれを宇佐美に教えるために
その上でそなたをこのわしに預けたのじゃ。

つまり、これは
わしが景虎殿に従ったという事になる。


なれば武田には懐柔されぬぞ。

それだけは諦めてもらわねばのぅ。




ただ、仏に帰依した武将ではない。

勘助は長尾景虎に只ならぬものを感じていた。







それから間もなく景虎は三度定満を訪ねた。

宇佐美は彼が帰依する熊野牛王に誓って景虎に仕える事にした。

それは大熊朝秀には衝撃的な事であった。


そしてまた一つ越後がまとまっていく。





その頃、勘助が戻らぬまま
晴信の嫡男・太郎が元服し、義信と名乗った。


その姿を見て母・三条夫人を喜んでいた。
それ以上にこの事を待ち望んでいたのは
他ならぬ義信の傅役・飯富虎昌であった。


「飯富さん、ありがとう。」

母は息子をここまで立派に育ててくれた
飯富虎昌に感謝をした。



義信は言う。
軍師の山本勘助がおらぬ今家中で頼れるのは虎昌である。

長生きせよ。


その言葉が虎昌には嬉しかった。



その時、勘助の名を聞いたお北の方は突然昏倒した―――。











母が倒れたと聞いて晴信も信繁も駆けつけた。

何を騒いでおるのです。

当の母親は先程倒れた事を気にしていないようだった。



母上、近頃は碌に食も摂らぬと聞きまする。

信繁も晴信も母上の身を心配していた。



山本勘助。
私はその者にあった事はないが
そなたの影となってそなたを支えているのではないか。
助けずともよいのか。



思いもよらぬ母の言葉に晴信は一瞬戸惑った。


二度までも村上に負け
もうこれでよいではないですか。

これ以上他国と争う事もなく
太郎と四郎を育て良き国を作っていければ。



母上、そのために攻めるのでござりまする。

晴信は言う。

今は守るために攻めるより他にござりませぬ。

勘助の事はご心配致しまするな。






景虎の臣となった宇佐美定満は春日山城に出仕した。


長尾政景の反乱の動きが顕著になったと言う。



長尾政景を討つ。


その言葉に景虎の家臣は一同に納得する。



「お待ち下され」


その場を制したのは宇佐美であった。



城を落としてはなりませぬ。

長尾政景は和議を望んでおりましょう。

おそらく姉君を所望した上での和議を望んでおりましょう。

ここは上手に出て威圧の種を植え付ける事が肝要にござりましょう。




宇佐美が語る策。

まずは政景の弟を人質として差し出すように要求する。

おそらく政景はその申し出を断るでしょう。

そこで政景に宣戦布告の書状を送り付ければ
政景は間違いなく降伏するであろうと。



敵を屈服させるにはあらゆる手をうつ。

武力に頼るだけでは国を治めていけませぬ。

無益な戦は国を滅ぼすのみと思いませぬか。



景虎は宇佐美の意見を採用した。



その意見に異論はないものの
今まで長尾家を苦しめてきた者の言葉に
直江実綱は心中穏やかにはなれなかった。



そして、未だ景虎からお手つきをされぬ娘・浪に八つ当たりした。


そなた、見る度に色香が抜け落ちておるぞ。








それから間もなく
坂戸城主・長尾政景の下に景虎から書状が届いた。

弟を人質に差し出せと。

宇佐美の予想通り、政景は怒りに打ち震えていた。








その頃、景虎と宇佐美はあの者がどうするか考えていた。

あの者は主に叛くと思うか。

分かりませぬ。
寝返るやもしれぬな。


あの者の主はどう思うかのう。

寝返る事よりも討たれる事を望んでおりましょう。

虚しいのう。


相変わらず景虎はこの世の欲がもたらす乱れを嫌っていた。






勘助が裏切るはずがない。


駒井は由布姫の下を訪れていた。
未だ越後に捕らわれている勘助。
もしかしたら勘助は既に越後に寝返ったかもしれないという
噂がある中、由布姫はそんな事は絶対にないと


私が助けに行きたい


勘助はあの雪の中で私を助けてくれたように
この私が助けに行けたら―――。





そして年が明け、夏が来た。



景虎は政景に宣戦布告の書状を送りつけた。


程なく政景の書状が届いた。
それは無条件に和議を結ぶ申し出であった。






長尾政景殿が降伏しました。
間もなくこの春日山城に参りましょう。


戦にはならず誠に良かった。

姉上、長尾政景殿が下に嫁いでいただけませぬか。

景虎・・・それでよいのです。それでこそこの越後は安泰となりましょう。



政景は春日山城を訪れた。

景虎は彼を菖蒲の葉で斬る仕草を行った。
全てはこれで水に流そうと。

政景殿、我が姉の事、よろしく頼んだぞ。

その言葉に政景は心から服従した。


大儀であった。




遂に景虎は越後は統一し治める事となった。

鉄砲は届けられなかった。



道安は諸将の前へ引きずり出された。



家臣の前で届かねば殺すと約束した。

偽りは好まぬ。

長尾家に仕えると誓紙血判致さば助けぬでもないぞ。


お断り致す。

そなたの主はとうにそなたを見捨てておる。
それでも忠義を貫くか。


これは己への忠義にござる。


なれば仕方あるまい。



勘助の前に最後の酒が振舞われる事となった。
勘助は一杯だけ飲むと杯を叩き割った。



さぁ殺せ!!



景虎は道安に問う。


何故他国の領地を侵す!


殺せ!!


そなたは一杯の酒のみ。
しかるに何故。

多くを望むは虚しいもの故か。



説教は孫子でお願い申す。


自ら首を差し出す道安。


太刀では殺さぬ。



景虎は鉄砲でもって道安を処刑する事にした。



道安を木に縛り付けると
風林火山の文字を道安の頭上に貼り付けた。



的を外せばそちは死ぬ。
わしが的を外さぬよう毘沙門天に祈れ。



神仏には祈りませぬ。

さるお方を信じてから
某の神仏はさるお方のみにござりまする。



そのお方は救ってはくれぬぞ。


某は神仏に救われた事なぞございませぬ。
某は人を好んでおりますえる。

人の醜さ、ずるさ、弱さ、はかなさ、憎しみ、迷い、偽り、虚しい欲深さを好んでおりまする。
某も左様な者に救われてござりました。



されば、そのお方とやらに祈ればよかろう。


我が人生、死して悔いなし



景虎は道安に鉄砲を向けた。

その時、直江実綱が景虎を呼び止めた。

根来寺より鉄砲が届けられたと言う。


そこに現れたのは伝兵衛と
紀州・雑賀の当主・津田監物であった。




大儀であった。



そして景虎の約束通り、道安は返される事となった。



縄を解かれた道安に津田監物は言う。

「そなたを救いに来た訳ではない。そなたの主に恩を売ったまでじゃ。」


御館様―――。




よき主を持ったのう。


道安、そなたの祈りが通じたな。
そなたの誠の主に申しておけ。

この景虎を知りたければ
いつでも自ら訪ねてまいれ。

この景虎に隠すものは何もない。
左様に伝えるがよい。



伝えはしませぬ。
いずれ、どこかの地で相見える事もござりましょう。



孫子にか。

毘沙門天に。



そして景虎と勘助は互いに次なる敵を見据えていた―――。





今回もまたいい感じですねぇ。


武田は二度も敗れました。
つまり、勘助がいなかった
進言しなかった事により武田は敗れた


そういう部分を印象付けたように思います。



もうひとつ印象深いのは勘助と宇佐美とのやりとりですね。


おそらく勘助は
主家である上杉家を攻撃した逆臣である長尾家に対し
恨みをもっているであろう宇佐美をなんとか武田に引き入れようと
考えていたはずです。

それを「なれば武田には懐柔されぬぞ。」と言って勘助に釘を刺す宇佐美。

敵もなかなかなる曲者です(笑)


淡々としていて温和なる人物ですが
仏の教えと共に人の世の道理も全てわきまえた
どこか達観された考えを持っている人のようですね。



常に何かを求める勘助とはまた種類の違う軍師です。






前回の出来がちょっとイマイチだったので再度描いてみました。



もうひとつのポイントは
勘助の処遇を如何にすべきかという武田家の考え方です。



義信は勘助がいなくとも飯富虎昌がいれば武田家は安泰だと考えているようですね。
おそらくは三条夫人もそのような考えなのでしょうねぇ。


意外だったのは
由布姫はともかくお北の方も勘助を気にかけていたようですね。


そして晴信が行った決断は
津田監物に願い出て百挺の鉄砲を越後に届けてもらう事でした。

つまり勘助を必要としている事なんでしょうね。


板垣・甘利亡き今
勘助が晴信を支える影となる。


この数年で勘助は晴信にとってなくてはならない人物になっていったようです。




さて、次回戻ってきた勘助を待ち受けるのはもちろん信濃・村上義清。

そして真田幸隆。


タイトルもまさしく「真田の本懐」

これまた楽しみですね。

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この記事へのコメント

2007年08月20日 01:02
こんばんは
勘助は最後、危機一髪でしたね
宇佐美は早速政景攻略に大活躍でした
これからの両雄の対決が楽しみです
2007年08月20日 14:48
ikasama4さん、こんにちは。
>淡々としていて温和なる人物ですが
仏の教えと共に人の世の道理も全てわきまえた
どこか達観された考えを持っている人のようですね

物静かですが、非常に奥行きのある人物ですよね。
「ああ・・・まるでikasama4さんのようだ・・・」と
チラリと思いましたよ☆
ikasama4
2007年08月20日 20:16
Hiro様
こんばんはです。
年齢的に宇佐美と勘助は同年代なんですが
こうも違うもんかと思う二人です(笑)

>これからの両雄の対決が楽しみです
まったくもってその通りです(≧∇≦)b
ikasama4
2007年08月20日 20:16
なおみ様
こんばんはです。

>物静かですが、非常に奥行きのある人物ですよね。
勘助と同年代のはずなんですが
いつもめたらやたら動き回る勘助とはえらい違いです(笑)

>「ああ・・・まるでikasama4さんのようだ・・・」と
>チラリと思いましたよ☆
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ(; ̄∀ ̄)ゞ

自分はだらしないタイプなんで(; ̄∀ ̄)ゞ
2007年08月20日 22:03
こんばんは~!
いつも穏やかな表情を見せている宇佐美さんですが、初めて息子さん(直人さん)とやっぱりお顔立ち似ていらっしゃるなーと思いました。

お舘様にしても、軍師にしても、色々なタイプの方がいて、面白いですね。

政景との話が今ひとつ分からなかったのですが、こちらの記事で、よくわかりました。
ありがとうございました。
ikasama4
2007年08月20日 23:22
さくらこ様
こんばんはです。
>初めて息子さん(直人さん)とやっぱりお顔立ち似ていらっしゃるなーと思いました。
ちなみに緒形直人さんは次男でして
長男はこれまた俳優の緒形幹太さんです。

今週、日曜洋画劇場「蝉しぐれ」で主人公・牧文四郎と
戦うライバル・犬飼兵馬を演じます。

彼もまたかなり似てます。

色んなとこで書いていますが
宇佐美と勘助って大体同じ60代なのですが
一方は目まぐるしく動き回り
一方はじっとして動かずととても両極端ですね。

この二人がどのようにして対決するのか
それだけでも面白そうです。

>ありがとうございました。
どういたしまして(^▽^)

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