新マチベン~オトナの出番~ 第5話

ネットカフェで黙々とキーボードを叩く少年がいた。
彼は耕心学園を爆破する予告メールを書いていた―――。










「過去は芸術品のようなものです。
あまり仕舞い込んでおくとカビが生えるかもしれませんよ。」


バー「アンブレラ」で
相変わらず堺田の口ぶりは徳永の癇に障るようだった。

下手な絵は見せたくないんです


そう言って自分のことを話そうとしない徳永に堺田は言う。

「自分の事を話さない。
それはすなわちそれだけ過去にこだわっているという事だね。」






翌日、レグラン法律事務所に仕事の依頼がきた。
耕心学園に爆破を予告するメールが届いていた。
その犯人として杉山という学園の生徒が逮捕された。
杉山は3ヶ月前に放火事件を起こしており、
校長や杉山の担任である新庄は責任を痛感していた。
また学校側ではメディアの激しい取材攻勢を恐れ
それを回避するためにこのような事に慣れた弁護士を要請する事にした。


そこでかつて新聞記者だった徳永が派遣される事となった。


校長は会見を開きたいと申し出た。

まだ杉山が罪を認めていない段階で会見をするべきではないと徳永は考えていた。

しかし、校長はどうしても会見を開きたかった。
すでに社会的に迷惑をかけている。
その中で学校としてどうあるべきかをはっきり主張したいのだと。


徳永はそんな校長の熱意に押し切られた。


次に会見でどうすればいいか尋ねた校長に徳永は答えた。


会見には二つの方法があります。
一つは一切クチを開かない。
挑発には乗らない。

もう一つは話すべきことは話す。


逃げれば終わりです。
無責任だと批判もあるでしょう。
だからある程度は意見もする事も大事でしょう。



校長は徳永の言葉に納得したようだった。

教師になって38年。
彼は今年で退職すると言う。


その誇りを徳永は守りたかった。



「私は賛成できかねます。」


事務所に戻って会見を開く事を報告した徳永に堺田は言う。


「マスコミに顔を晒す恐怖はあなたが一番知ってるはずじゃないですか。
相手はテレビです。週刊誌なんですよ。」


私が責任を持って会見を仕切ります。


「そんな事で依頼人の利益を守れるんですかね。」


徳永は守ってみせると断言した。
それには新聞記者として働いてきた過去が彼への自信になっていた。


それが堺田には不安だった。
「得意分野でこそ過ちを起こすのが人間ですから。」





翌日、会見が開かれる。

会場に向かう前に徳永は校長に確認をした。

校長先生、もう一度確認しますが本当によろしいんですか。
本当に少しでも迷いがおありなら私がマスコミの対応をしますが。

「ご心配なく。ここは私の学校ですから。」


会場で徳永は校長と同席した。


冒頭、校長はマスコミの前で謝罪をした。
その行動に徳永は戸惑った。

それはすなわち逮捕された少年の罪を学校側が認めたことになるのだから。


マスコミは執拗に攻め立てた。

元新聞記者としての経験が
同じ穴のムジナとして学校側に不利に働いていく。

居た堪れない程のしつこさに新庄先生がクチを開く。


マスコミの鉾先が新庄先生に向く。
そして咄嗟的に新庄先生は言ってしまった。


「杉山は反省してると思います。」




「杉山」という苗字を知ったマスコミは
早速彼の家族の住所を突き止め母親の下へ押しかけていく。

新庄先生が思わず洩らした一言で。



「胸騒ぎが当たりましたね。」

テレビのワイドショー番組を見ていた堺田は呟いた。

「覆水盆に返らず。二度と元には戻りません。」



その番組で評論家は言う。


『そもそも先生達が記者会見を開こうってのが問題なんですよね。』





その後、学校に警察から連絡があった。

杉山が釈放されたと。


杉山はずっと自分のアドレスを使ったと証言した。
またネットカフェでの証言も曖昧で杉山だと確認を取る事が出来なかった。

そのため証拠不十分として警察は杉山を釈放したと言う。


今後、彼がまた逮捕されるかどうか徳永は尋ねた。


もうそれはないらしい。
世間ではすっかり犯人扱いだろうから。



杉山の母に対する新庄先生への信頼は崩れてしまった。

結局、学校は息子を見捨てたのだと。

その場にいた徳永は遣る瀬無い思いだった。




それからタクシーに乗り込んだ杉山は母に尋ねた。


新庄先生は何て言ったのって。


『杉山は反省してると思います。』


「・・・俺がやったと思ってるんだ」

その言葉に彼は失望を覚えていた。






「たしかに疲れたでしょうね。」

徳永は堺田の皮肉を言い返す力はなかった。


不手際がありまして。

「我が事務所の評判にも響くでしょう。
だから言ったじゃありませんか。」



私は取り返しのつかない失敗をしてしまいました。

「自覚をしてるんですね。」

何と言われても言い訳の仕様がありません。


「それで潔いつもりですか。

そう言われて頭を下げていれば楽ですよね。

しかし、何故こうなったのかあなたには説明する義務がある。

我々にはこの窮地を乗り切るために話し合う義務がある。

我々はパートナーだから。

違いますか。」






流石の岡村も異論を挟む余地がなかった。






そして徳永の重い過去が開く。






かつて少年の実名報道が問題になった事件があった。

この記事を書いたのは他ならぬ徳永だった。



阿佐の谷の住宅で殺人事件。
19歳の少年が容疑者として浮かんだ。

その少年のノートには被害者である少女の名前が書かれていた。
その他にも少女の名前が書かれていた。

このままでは更に犠牲者が出る。


そう考えた徳永は新聞社を説得して未成年の実名報道に踏み切った。


ところが事態は思わぬ方向に向かっていった。


マスコミの対応によって少年の母親が追い込まれて自殺を図ってしまったのだった。



その鉾先が今度は徳永のみならず徳永の家族に向かっていく。


その時、妻に言われた。

あなた、いつも人を追いかけて責めるばっかり。
もう少し、誰かを助けることを考えたら。
そんなんだったらいつか自分がつらくなるんじゃない。





皮肉な結果となりました。


「あなたが望んだ事でしょう。」


今でも思います。
あの時、自分がやった事が間違ってなかったのか。



「だからこんな仕事を選んだのでしょう。」


そうかもしれない。
徳永は思わずはにかんだ。


「やっと素直になりましたね。

あなたなら十分過去に向き合う事ができる。
そして答えを出せることができる。

仕事のパートナーではなく
人生のパートナーとして応援しますよ。」



似合わん事を。


三人は思わず笑った。













帰宅後、徳永の携帯が鳴る。



新庄先生からだった。


『今から学校に来て欲しい。』


こんな夜遅くにと思いながらも徳永は学校に向かった。






学校では新庄先生が顔面蒼白になっていた。



どうかしましたか?


尋ねる徳永を新庄が連れていく。


彼女が向かった先にいたのは校長先生だった。



徳永は校舎を見上げた。

教室らしき窓が開いている。


どうして?何が起こったのか?



徳永の範疇を超えて事態は更に混沌としていく―――。







今回はホント堺田の言葉がズシリときますねぇ。


人にはたしかに得意とする分野ってのがあります。

でも、得意だからこそ過ちを起こしてしまう。


これもまた堺田の経験から基づいているのかもしれないですね。



そして徳永が窮地に陥って一切の弁解をしない姿勢に
堺田は責めたてます。

何故言い訳をしないのか。
何故こんな事態になってしまったのか。


彼らはこの事務所のパートナーとして
この事態を一緒に打開しなければならない。

だからこそ一人で抱えてしまって欲しくない。

もっと人を信じて欲しい。



そんな堺田の思いが感じられるようです。



さて、この事件ですがおそらく杉山は無実なのでしょうね。


杉山はかつて放火事件を起こしたから
罰を受けなければならない。
真面目にやってる俺らが馬鹿みたいだろと言ってた生徒達がいました。

おそらく彼らが犯人なのでしょうね。


杉山を犯人に仕立てあげるため。
動機はおそらく彼らが先生に言ったような事で。


ただ、その事がきっかけとなって
杉山は犯人扱いされた事というよりも
先生にさえ信じてもらえなかった事に
憤りを覚えていたようです。


校長の転落死。


ひとつの小さな事件がこのような事態になってしまう。

最初は些細な嫉みからだったのに。
こんな風になるとは考えていなかったのに。



だからと言って今更起きてしまった結果は元には戻りません。


覆水盆に返らず。


でも、前に進む事はできます。

その道筋をレグラン法律事務所の三人はどのようにしていくのか
とても気になりますね。

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