風林火山 第29話 「逆襲!武田軍」

村上義清の軍が攻めかかる。
この戦で甘利虎泰・板垣信方の両名が命を落とす。
激情に駆られる晴信に勘助は冷静に言う。

御館様、お退き下され



晴信は自らも負傷したが直も陣を構え退く気配はなかった。

御館様、そろそろ御帰陣の御下知を。

村上軍も兵を退きました。



何故じゃ。
何故、わしは負けたのだ。

板垣と甘利は何故わしの下知に従わなんだのじゃ。



戦が長引けば領民や家臣の不満が御館様に集中致します。
それを防ぐために板垣様と甘利様はあのような事を成されたのです。



それではわしが板垣や甘利を殺したようなものではないか。


板垣様も最後まで御館様を御守りしたのです。
御本懐を遂げたのです。




それでも晴信は兵を退く事はなかった。
もう十日も経つ。



甲斐にいる駒井は晴信の母・お北の方に御館様へ兵を退く手紙を書いてもらう事を願い出た。
お北の方は急ぎ息子への手紙をしたためた。




負けを認めず
家臣や領民の心を顧みず
その地に留まる貴方様を情けなく思う。

そなたが受けた心の痛みは
そなたが立ち向かわなければならない
心の痛みを潔く認め、一刻も早く退く事―――。



こぼれそうな程の涙を必死に堪えて晴信は言った。

ひとまず諏訪に兵を引き上げる。



武田軍は甲斐へ戻った。
合戦から既に二十日以上が過ぎていた。






「左様か。御館様は立ち寄らぬか。」

勘助は由布姫の下に立ち寄り、御館様が甲斐に戻った事を告げた。

「この信濃はいかがなる。」

この機に乗じて武田に歯向かう者が方々に立つやもしれませぬ。
この諏訪にも災い及ぶやもしれませぬ。
しかし―――





「そなたは御館様の御側へ御仕えなさい。
そなたを頼りにしているのは御館様じゃ。」


その言葉に従い、屋敷を後にする勘助。


「じぃ、じぃ」

一人の男の子が勘助に駆け寄った。

由布姫様の和子様である四郎様だった。


「かんしゅけ」


思わず勘助の隻眼から涙がこぼれた。

そして勘助は甲斐へ向かった。



あの時、由布姫は勘助の言葉を遮った。
「某が姫様、和子様を御守り致します」

勘助ならば、きっとそう言うはずだから―――。





そなたは主君として何を治めてきた。

国か
人か

戦をもって他国を脅かす事か。


国のために利を求めることも大事
人を慈しむことも大事


わかっておりまする。
それが人です。


ならば見失うたのは家臣か。
甘利や板垣はそなたを見限って戦を仕掛けたかと思うのか。


そなたを信じたが故の事じゃ。

そなたの天運を信じたために死をもって諌めたのじゃ。

そなたは今一度そなたの道を見つめ直さねばなりませぬ。

人々は強いそなたを信じるのではない。
そなたが信じるものを皆も信じたいのです。




その夜、火の光と温かさに触れ
晴信は一人、自問自答を繰り返していた。



ふと北の方は甘利の声を聞いた気がした。


お北様、人も時も移ろえど
我が甲斐の山々は変わる事がござりませぬなぁ。
御館様のお心もいずれ甲斐の山になりましょうぞ。



甘利殿、最早甲斐の事など案ぜず眠りなされ。

北の方の頬を悲しみが流れていった。







村上が武田に勝った。


その知らせは小笠原長時の耳にも届いた。
今、武田も村上も疲弊している。
今が好機である。

高遠頼継の言葉により小笠原長時は武田との戦へ動き出していた。






小笠原家中の者を寝返らせる。

勘助は真田幸隆・相木市兵衛に小笠原家中の者達の調略を依頼した。

既に何人かの小笠原家中の者に辺りをつけていると言う。

これは勘助の策かと訪ねた真田に対して勘助は首を振った。

この策は板垣様じゃ。

諏訪は武田が守らなければなりませぬ。
それが板垣様の御遺志にござりまする。

わしは信濃を形勢を見誤った。
わしは信濃を見ようとはしなかった。
わしの慢心じゃ。


―――それ故に次こそは勝たねばならぬ。






その夜、晴信は久しぶりに三条夫人を訪ねた。


皆、武田家を滅ぼそうと勢いづいている。

心細くはないか。


左様な事。如何に堅固な城に篭ろうとも
お前様に思いやりの心がなければ、より心細くなるばかりです。




此度の戦で忘れかけていた心を取り戻したような気がする。

武田家の家訓とすべき心じゃ。

いつか後継ぎとすべき太郎にも伝えねばならぬ心じゃ。


その言葉に三条夫人は笑った。






小笠原が動いた。


諏訪の反武田の豪族を従えて諏訪を出陣。

反武田軍は塩尻峠に陣を敷いた。



それに呼応して武田も動き出した。

しかし、武田軍は諏訪ではなく甲斐・大井ヶ森に陣を敷いた。



「何故に諏訪へ兵を進めませぬか。」


家臣達の問いかけに晴信は言う。

勘助、そちの考えを申せ。


我らはしばしこの地に留まりまする。

それは敵を油断させるためにござりまする。

敵は今の武田勢には抗う力がないと知って出陣したのでござりまする。

ならばとことん侮らせるまでにござりまする。



しかし、諏訪勢は続々と小笠原に寝返っていると聞き及んでおる。


それこそが狙いにござりまする。

だからこそ小笠原も動いたのでござりまする。

なれど、此度は如何にしても小笠原に戦で勝たねばなりませぬ。

小笠原に勝てば武田は息を吹き返します。

敵の油断と7月の暑さが我らに味方されます。



軍師がまた息を吹き返しよったか。

小山田は苦々しく呟いた。



軍議を終えた後、勘助は小山田を訪ねた。

小山田様、ご容赦下さりませ。

勘助、諏訪の御料人様は御息災か。

和子様共々ご無事にござりまする。

妻が和子を生んだ。

もうすぐ1年になる。

あれはよい女子じゃ。
子が生まれた祝いにこの戦は勝つぞ。勘助。


小山田もまたこの戦に賭けるものがあった。





勘助の下を馬場信春・原虎胤の両名がやってきた。
これから如何するつもりだと。
この暑さで兵士達が裸になるのを待つつもりかと。

その通りでござりまする。

勘助の笑みに馬場は気付いた。


小笠原の陣へ奇襲を仕掛ける。


原虎胤は先陣を願い出た。
これはわしにとっては板垣様への弔い合戦になると。

その申し出を勘助は断った。

板垣様はまだ生きておられまする。





七日が過ぎた。


小笠原長時は暑さに参って武具を解いていた。
それにならって兵士達は水浴びをする程、兵の士気は乱れていた。

高遠頼継はこの状況を憂いた。

武田には油断こそ大敵なのじゃ。




その夜、武田が動く。

小笠原に気付かれる事なく諏訪・上原城に入城した。

勘助は小山田・飯富・原に襲撃するよう軍を差配する。

そして勘助が先陣を―――


「お待ち下さりませ。」


諏訪満隣ら諏訪衆が先陣を願い出た。



敵には必ずや神罰が下りましょう。
ここにいる諏訪衆は誰一人として疑うておりませぬ。


何故、そなたらが先陣を・・・

御館様があの旗を掲げられたからにござりまする。



晴信は武田の旗を見上げた。

これは・・・

御館様が御印になられた諏訪明神の御神号にござりまする。

あの時、板垣が御館様に願い出た諏訪明神の神号の文字が
御旗に記されていた。


これでこの戦、御館様の勝ちにござる。


この旗を見て御館様に逆らう者はおりますまい。
寝返った者達も我らに味方致すでしょう。
是非、某共に先陣を。


晴信は振り返り勘助を見た。

勘助は優しく頷いた。




武田の奇襲が始まった。


小笠原軍の兵士は次々に討ち取られていく。
この機に乗じて武田へ寝返る者達もいた。




小笠原長時は命からがら林城に逃げ戻った。

高遠頼継は甲斐に送られ、後に切腹した。

そして武田は信濃においてその汚名を洗った。




その光景を見つめ、晴信の弟・信繁は言った。

我らの勝ちじゃ。
諸角、そなたに言うておく事がある。
これから兄上と呼ばぬ。
御館様じゃ。
御館様こそ我らが主君。最後まで己を信じる。



某は恥ずかしき限り。
板垣・甘利のような者が死に、某のような者が生き残った。
不覚を取り申した。


家臣として諸角は己を恥じていた。




戦が終わった。

そして伝兵衛は自害しようとしていた。

追い腹を切るか。伝兵衛
それもよかろう。



この戦に勝ったら板垣様の御側にいくと決めていたんじゃ。


最も楽な死に方じゃ。
板垣様は楽に死ねたかのう。



誰のおかげでこの戦は勝ったんじゃ!
勘助はこの勝ちが悔しくないのか!


わしには泣いている暇がないのじゃ。
拾った命は存分に生かさねば。
まだまだ板垣様の御側には行けぬ。

御館様とて悲しみに耐えて戦っていたのじゃ。





その日、晴信は由布姫の下を訪れた。

諏訪を守った礼を言う姫。

守ったのはわしではない。



晴信は一人
「南無諏方南宮法性上下大明神」の文字を見つめていた。


板垣、此度は大儀であった。
わしはそなたにひとつ、大事なことを約束する。

わしは生涯、我が甲斐に城は築かぬ。

そちたちがわしの城じゃ。

人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり

それをそなたに約束する。



ふと晴信の右手に蜻蛉が止まった。


晴信はその蜻蛉に板垣を見た。


若、良き歌にござりまするなぁ。
人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵也

良き歌にござる。



そちはわしをほめてくれるか。


晴信は板垣へ手を伸ばした


しかし、板垣に届く事はなかった。

晴信は板垣が持っていた扇を握り締めていた。



板垣、わしをそちをほめぬ。

何故死んだ
何故死んだ板垣、何故死んだ板垣・・・



晴信の叫びが屋敷に響き渡る。

勘助はただじっと聞いていた。




月影の明りに蜻蛉が舞う。


その光景を見つめ、勘助は板垣の事を偲んでいた―――。




今回も見せてくれますねぇ。


小山田や原との小笠原との戦いに賭ける意気込みも流石なものですが
それ以上に勘助にとっては是が非でも勝たなければならない戦だったようですね。


また、今回個人的にツボだったのは諸角虎定でした。
彼は晴信の変貌に、信繁を家督に擁立すべきではないかと考えた次第だったのですが
自分の命を賭けて御館様を諌めた板垣・甘利両名の姿を見て
まず家臣として御館様を諌めなかった自分の心根を恥じたようです。

むざむざと生き延びてしまった。

その老臣の思いがおそらく川中島へ繋がっていくのでしょう。


そして最後のシーン。
いいですねぇ。

蜻蛉は戦の折に板垣が被っていた兜の飾り。

そして、あの有名な歌が詠まれるのですが
もしかしたら、このために板垣は歌を学んだという設定があったのでしょうかね。
ここもシビれましたが、最後の最後。

月影に浮かぶ蜻蛉。


「今度はおぬしが月影となって御館様を照らす番だ」


そう板垣が言ってるような感じにさせてくれます。







さてさて、今回の戦についてもう少し簡単に説明をば。


村上との戦により武田は負けました。


ここで動き出すのが小笠原長時です。







小笠原の下にはかつて諏訪を巡って
武田に敗れた高遠頼継がいました。









彼は小笠原長時に村上との戦いに武田が敗れた今が好機と
武田を攻めるように促します。







そして小笠原は反武田の兵を引き連れて上原城近くにある塩尻峠に陣を敷きます。








しかし、武田は一向に動く気配がありません。
出陣はしたものの、諏訪に兵を進めずに甲斐に留まります。


しかも季節は夏なので鎧を着てるととっても暑いです。

そのうちに暑さにまいって兵達はだらけてきます。


その油断を誘っておいて武田は
こっそり上原城に入城し、その日のうちに小笠原を強襲します。








そして、諏訪の旗を見て小笠原についた家臣達は武田に寝返ります。








結果は当然、武田の完勝。

高遠は捕らえられて切腹







小笠原はその後、居城である林城に逃げ帰りますが
武田軍が小笠原の所領を攻めると城を捨てて村上義清に下へ逃げていきます。






これで武田は再び強さを取り戻していったという次第です。




さて、次回はいよいよ越後。
色々と動き出すようです。

とうとう宇佐美も登場です。

今川も北条も気にかかる人物―――長尾景虎。
とても楽しみでなりません( ̄ー ̄)b

まぁ来週は選挙なので7:15分からの放送になります。

皆さん気をつけましょう( ̄ー ̄)/~~

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この記事へのコメント

2007年07月22日 23:00
私も諸角に、また泣けましたわ。。。
板垣と甘利を失ったのは、晴信と勘助だけでは
無かったんですよね。
皆が後悔している、だからこそ、今後に繋がっていくんですね。
そういう意味では、板垣は生き続けていくわけです。
感動したなぁ。。。

高遠が似すぎていて、笑えます(^_^;)

楽天の管理画面に入ると、イラっとする状態なので、
今日はコメントのみで(__)
ikasama4
2007年07月23日 01:01
くう様
>板垣と甘利を失ったのは、晴信と勘助だけでは
>無かったんですよね。
どうもそのようです。
晴信は今回の敗戦で失った者を悔い
勘助は今回の敗戦を止められなかった事を悔い
諸角は家臣としての己の振る舞いを悔い

そしてそれぞれの中にその後悔が
彼らの糧として今後に繋がっていくようですね。

あの蜻蛉が哀愁を誘ってくれます。


>高遠が似すぎていて、笑えます(^_^;)
良かったらもらってやって下さい(笑)

>楽天の管理画面に入ると、イラっとする状態なので、
>今日はコメントのみで(__)
( ̄∀ ̄)ゞ了解です
2007年07月23日 22:40
今回も泣けるシーンが多かったです。
中でもあの蜻蛉は本当にジーンときました。
晴信が以前の心を取り戻したのでよかったです。
板垣や甘利の死は皆にいろんな思いを持たせてくれましたね。

PS 迫力のある暑中お見舞い絵頂き、Giftに飾らせてました~^^
ikasama4
2007年07月23日 23:26
小雪様
今回は色々と見せ場やら伏線やらが多かったです。

これで晴信も元に戻ったので
これからまた武田より強くなっていく事でしょう。

P.S.
Giftに飾って頂きこちらこそありがとうございます(^▽^)

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